桜台教会シリーズ:『賢く生きよう』
-ユダヤ人の知恵に学ぶー
知恵の書
新共同訳聖書外典
1章
1:1 国を治める者たちよ、義を愛せよ、/善良な心で主を思い、/素直な心で主を求めよ。
1:2 主を試すことをしない人は主を見いだし、/不信を抱かない人に主は御自身を示される。
1:3 よこしまな考えは人を神から遠ざけ、/主の力は、試そうとする愚か者の罪深さを暴く。
1:4 知恵は悪を行う魂には入らず、/罪のとりこになっている体には住み着かない。
1:5 人を教え導く聖なる霊は、偽りを避け、/愚かな考えからは遠ざかり、/不正に出会えばそれを嫌う。
1:6 知恵は人間を慈しむ霊である。しかし、神を汚す者を赦さない。神は人の思いを知り、/心を正しく見抜き、/人の言葉をすべて聞いておられる。
1:7 主の霊は全地に満ち、/すべてをつかさどり、/あらゆる言葉を知っておられる。
1:8 それゆえ、不義の言葉を口にする者は/身を隠すことができず、/義の懲罰を逃れることもできない。
1:9 神を信じない者のたくらみは暴かれ、/その言葉は主の耳に達し、/その不法は懲らしめられる。
1:10 熱情の神はすべてに耳をそばだて、/不信のつぶやきを聞き漏らされない。
1:11 だから、無意味な不平を鳴らさず、/悪口を慎め。ひそかなつぶやきもただでは済まされず、/偽りを言う口は魂を滅ぼす。
*死は罪の結果
1:12 道を踏み外して死を招くな。自分たちの手の業で滅びを引き寄せるな。
1:13 神が死を造られたわけではなく、/命あるものの滅びを喜ばれるわけでもない。
1:14 生かすためにこそ神は万物をお造りになった。世にある造られた物は価値がある。滅びをもたらす毒はその中になく、/陰府がこの世を支配することもない。
1:15 義は不滅である。
1:16 神を信じない者は言葉と行いで自らに死を招き、/死を仲間と見なして身を滅ぼす。すなわち、死と契約を結んだのだ。死の仲間としてふさわしい者だから。
2章
*神を信じないものの人生観
2:1 彼らはこう言い合うが、その考えは誤っている。「我々の一生は短く、労苦に満ちていて、/人生の終わりには死に打ち勝つすべがない。我々の知るかぎり、/陰府から戻って来た人はいない。
2:2 我々は偶然に生まれ、/死ねば、まるで存在しなかったかのようになる。鼻から出る息は煙にすぎず、/人の考えは心臓の鼓動から出る火花にすぎない。
2:3 それが消えると体は灰になり、/魂も軽い空気のように消えうせる。
2:4 我々の名は時とともに忘れられ、/だれも我々の業を思い出してはくれない。我々の一生は薄れゆく雲のように過ぎ去り、/霧のように散らされてしまう。太陽の光に押しのけられ、/その熱に解かされてしまう。
2:5 我々の年月は影のように過ぎ行き、/死が迫るときには、手のつけようがない。死の刻印を押されたら、取り返しがつかない。
2:6 だからこそ目の前にある良いものを楽しみ、/青春の情熱を燃やしこの世のものをむさぼろう。
2:7 高価な酒を味わい、香料を身につけよう。春の花を心行くまで楽しむのだ。
2:8 咲き初めたばらがしおれぬうちに、/その花の冠をつけよう。
2:9 野外の至るところでばか騒ぎをし、/どこにでも歓楽の跡を残そう。これこそ我々の本領であり、定めなのだ。
2:10 神に従っているあの貧しい者たちを虐げよう。寡婦だからといって容赦しない。白髪をいただく老人も敬いはしない。
2:11 力をこそ、義の尺度とするのだ。弱さなど、何の役にも立たないから。
2:12 神に従う人は邪魔だから、だまして陥れよう。我々のすることに反対し、/律法に背くといって我々をとがめ/教訓に反するといって非難するのだから。
2:13 神に従う人は、神を知っていると公言し、/自らを主の僕と呼んでいる。
2:14 彼らの存在は我々の考えをとがめだてる。だから、見るだけで気が重くなる。
2:15 その生き方が他の者とは異なり、/その行動も変わっているからだ。
2:16 我々を偽り者と見なし、/汚れを避けるかのように我々の道を遠ざかる。神に従う人の最期は幸せだと言い、/神が自分の父であると豪語する。
2:17 それなら彼の言葉が真実かどうか見てやろう。生涯の終わりに何が起こるかを確かめよう。
2:18 本当に彼が神の子なら、助けてもらえるはずだ。敵の手から救い出されるはずだ。
2:19 暴力と責め苦を加えて彼を試してみよう。その寛容ぶりを知るために、/悪への忍耐ぶりを試みるために。
2:20 彼を不名誉な死に追いやろう。彼の言葉どおりなら、神の助けがあるはずだ。」
2:21 神を信じない者はこのように考える。だが、それは間違っている。悪に目がくらんでいるのだ。
2:22 彼らは神の奥深い御旨を知らず、/清い生活がもたらす報いを期待せず、/汚れない魂の受ける誉れをも認めない。
2:23 神は人間を不滅な者として創造し、/御自分の本性の似姿として造られた。
2:24悪魔のねたみによって死がこの世に入り、/悪魔の仲間に属する者が死を味わうのである。
3章
*神に従う人の受ける報い
3:1 神に従う人の魂は神の手で守られ、/もはやいかなる責め苦も受けることはない。
3:2 愚か者たちの目には彼らは死んだ者と映り、/この世からの旅立ちは災い、
3:3 自分たちからの離別は破滅に見えた。ところが彼らは平和のうちにいる。
3:4 人間の目には懲らしめを受けたように見えても、/不滅への大いなる希望が彼らにはある。
3:5 わずかな試練を受けた後、豊かな恵みを得る。神が彼らを試し、/御自分にふさわしい者と判断されたからである。
3:6 るつぼの中の金のように神は彼らをえり分け、/焼き尽くすいけにえの献げ物として/受け入れられた。
3:7 主の訪れのとき、彼らは輝き渡り、/わらを焼く火のように燃え広がる。
3:8 彼らは国々を裁き、人々を治め、/主は永遠に彼らの王となられる。
3:9 主に依り頼む人は真理を悟り、/信じる人は主の愛のうちに主と共に生きる。主に清められた人々には恵みと憐れみがあり、/主に選ばれた人は主の訪れを受けるからである。
3:10 神を信じない者はその言行に応じて罰を受ける。神に従う人を心に留めず、/主から遠ざかっているからである。
3:11 知恵と戒めとを無視する者は不幸であり、/その希望はむなしく、労苦は無意味、/その業も無益である。
3:12 彼らの妻たちは愚かで、/子供たちは素行が悪く、/彼らの子孫も呪われている。
*義と不義の戦い
3:13 子を産めない体でも身を慎み、/不義の関係を持たない女は幸いである。神の訪れのとき、彼女は豊かな実りを受ける。
3:14 子種のない男でも、悪に手を染めず、/主に対して恨みを抱かぬ者は幸いである。その信仰のゆえに特別な恵みを受け、/主の神殿で栄誉ある役職に就く。
3:15 善を目指す労苦は見事な実を結び、/思慮深さは丈夫な根を下ろす。
3:16 しかし、姦淫によって生まれた子供は/生を全うできず、/不義の関係から生じた種は絶たれてしまう。
3:17 たとえ長生きしても役立たずと言われ、/老いて死を間近にしても、敬われることはない。
3:18 まして若死にでもすれば、全く希望はなく、/裁きの日にも救いはない。
3:19 神に逆らう者の子孫は惨めな最期を遂げる。
4章
4:1 子がなくても、徳のある方がまさる。徳はいつまでも忘れられることがなく、/神にも人にも認められるからだ。
4:2 徳が身近にあると、人はそれに倣い、/消え去ると、それを慕う。徳は常に勝利の冠をつけて進み、/戦いに勝って朽ちることのない褒美を得る。
4:3 しかし、神を信じない者の子だくさんは、/無意味である。不義の木は植えても深く根を下ろすことはなく、/根元を固めることもない。
4:4 しばらくの間、枝を茂らせても、/ひ弱なので風に揺さぶられ、/その力で根こそぎにされてしまう。
4:5 弱々しい小枝はへし折られ、/その実は無益である。青くて食べられず、/何の役にも立たない。
4:6 不義の床から生まれた子供は、/裁きの時、親たちの悪事の証人となる。
*神に従う人の若死に
4:7 神に従う人は、若死にしても安らかに憩う。
4:8 老年の誉れは長寿にあるのではなく、/年数によって測られるものでもない。
4:9 人の思慮深さこそ白髪であり、/汚れのない生涯こそ長寿である。
4:10 神に喜ばれていた人がいた。彼は神から愛され、/罪人の中で生活していたとき、天に移された。
4:11 悪が心を変えてしまわぬよう、/偽りが魂を惑わさぬよう、彼は天に召された。
4:12 悪の魅力は善を曇らせ、/渦巻く欲望は純真な魂をかき乱す。
4:13 彼は短い間に完成され、長寿を満たした。
4:14 彼の魂は御心に適ったので、/主は急いで彼を悪の中から取り去られた。人々はこれを見ても理解せず、/心に留めようともしなかった。
4:15 〔恵みと憐れみとは主に選ばれた人々にあり/主の訪れは主に清められた人々にあることを。〕
*神を信じないものの末路
4:16 神に従う人の死は、神を信じない者の生を裁き、/若死にした者の死は、/神に逆らう老人の長命を裁く。
4:17 悪人どもは知恵ある者の最期を見ても、/その人への主の配慮を悟らず、/なぜ主が彼を安全な場所に移されたかを/理解しない。
4:18 彼らは、その最期を見て軽蔑する。しかし、そういう彼らを主は嘲笑される。
4:19 その後、彼らは不名誉なしかばねと化し、/死者の中で永遠に恥を受ける。主が彼らを地に打ち倒して口を封じ、/その基から揺さぶり、/ことごとく討ち滅ぼしてしまわれるからだ。彼らは苦悩に責めさいなまれ、/人々の記憶から消えうせてしまう。
4:20 彼らはおののきながら罪の裁きを受け、/不法のゆえにあからさまに断罪される。
5章
*神に逆らう者の後悔
5:1 裁きの時、神に従う人は、/大いなる確信に満ちて立つ。彼を虐げ、彼の労苦をさげすんだ者どもの前に。
5:2 彼らはこれを見て大いなる恐れに捕らえられ、/思いもよらぬ彼の救いに茫然自失する。
5:3 彼らは自分たちの考えの誤りに気づき、/胸をかきむしりながら、嘆いて言う。
5:4 「この者を、かつて我々はあざ笑い、/愚かにも、ののしりを浴びせた。その生き方を狂気のさたと考え、/その死を恥辱と見なしていた。
5:5 それがどうして神の子らの一人となり、/聖なる人たちの仲間に加わったのか。
5:6 我々はまことの道を踏み外した。義の光は我々の上に輝かず、/太陽も我々のためには昇らなかった。
5:7 我々は不法と滅びの道をひたすら歩み続け、/道なき荒れ野を突き進んだ。主の道を知ることがなかったのだ。
5:8 高慢は我々にとって何の役に立ち、/富とおごりは何をもたらしてくれたか。
5:9 すべては影のように過ぎ、/うわさ話のように消え去ってしまった。
5:10 波を切って進む船のように、/通り過ぎるとその跡は見えず、/竜骨で分けられた波間はその跡形も残さない。
5:11 空を舞う鳥のように、/飛び行くあとには何も残らない。鳥は軽い空気を羽で押しやり、/飛び進む力でかき分け、/羽ばたきで打ち散らすが、/通り過ぎたしるしは後には何も見られない。
5:12 あるいは、的に向かって放たれた矢のようだ。切り裂かれた空気はすぐ元に戻り、/矢の通った道は分からない。
5:13 同じく我々も、生まれて来たかと思えば/死ぬときが迫り、/徳の証しを何一つ示しえなかった。そして自らの悪に身を滅ぼしてしまった。」
5:14神を信じない者の希望は、風に運ばれるもみ殻、/嵐に吹き散らされる消えやすい泡、/風に吹き流される煙、一夜だけの客の思い出、/このように彼らの希望は過ぎ去って行く。
5:15 しかし、神に従う人は永遠に生きる。主から報いを受け、/いと高き方の配慮をいただく。
5:16 それゆえ彼らは輝かしい王位を授かり、/主の御手から見事な冠を受ける。主は右の手で彼らを覆い、/その腕で彼らを守られる。
5:17 主はその激しい憤りを武器とし、/敵を懲らしめるため、被造物を武装させられる。
5:18 主は正義の胸当てを着け、/偽りのない裁きの兜をかぶり、
5:19 御自分の清さを堅固な盾とされる。
5:20 主は激しい怒りを鋭い剣とし、/宇宙は主に味方して愚かな者どもに戦いを挑む。
5:21 ねらいの定まった稲妻の矢が放たれ、/引き絞った雲の弓から的を目がけて飛んで行く。
5:22 怒りに満ちた雹が投石器から打ち出され、/海の水が彼らを襲い、/川が容赦なく押し流す。
5:23 激しい風が彼らに立ち向かい、/嵐となって彼らを吹き散らす。不法はすべての地を荒れ地に変え、/悪行は権力者たちの座を覆す。
6章
*為政者の責任
6:1 だから、王たちよ、聞いて悟るがよい。地の果てまで治める者たちよ、学ぶがよい。
6:2 多くの人々を支配し、/その国々の数を誇る者たちよ、耳を傾けよ、
6:3 あなたたちの権力は主から、/支配権はいと高き方から与えられている。主はあなたたちの業を調べ、計画を探られる。
6:4 あなたたちは国に仕える身でいながら/正しい裁きをせず、掟を守らず、/神の御旨にそって歩まなかった。
6:5 神は恐るべき姿で直ちにあなたたちに臨まれる。上に立つ者は厳しく裁かれるのだ。
6:6 最も小さな者は憐れみを受けるにふさわしい。しかし、力ある者は力による取り調べを受ける。
6:7 万物の主はだれの顔色もうかがわず、/強大な者をも恐れない。大いなる者も小さな者も、御自分が造り、/万物を公平に計らっておられるからだ。
6:8 しかし、権力者には厳しい吟味が行われる。
6:9 支配者たちよ、わたしはあなたたちに言う。知恵を学び、職務にもとることがないように。
6:10 聖なる掟を聖なる手段で守る者は、聖とされ、/掟を学んだ者には弁明の道が開かれる。
6:11 わたしの言葉を熱心に求め、慕うがよい。そうすれば教訓が身につくだろう。
*知恵は如何なるものか
6:12 知恵は輝かしく、朽ちることがない。知恵を愛する人には進んで自分を現し、/探す人には自分を示す。
6:13 求める人には自分の方から姿を見せる。
6:14 知恵を求めて早起きする人は、苦労せずに/自宅の門前で待っている知恵に出会う。
6:15 知恵に思いをはせることは、最も賢いこと、/知恵を思って目を覚ましていれば、/心配もすぐに消える。
6:16 知恵は自分にふさわしい人を求めて巡り歩き、/道でその人たちに優しく姿を現し、/深い思いやりの心で彼らと出会う。
6:17 教訓を真心から望むことが知恵の始まりであり、
6:18 教訓に心を配ることは知恵への愛である。この愛は知恵の命じる掟を守ることである。掟を守ることは不滅を保障し、
6:19 不滅は人を神に近づける。
6:20 知恵を熱望することは人を御国へ導く。
6:21 いま王座と王笏を享受する民の支配者たちよ、/いつまでも治めうるよう、知恵を学ぶがよい。
6:22 知恵が何者か、どのように生まれたかを語ろう。あなたたちにその神秘を隠さず、/その誕生からたどり、/知恵について知っていることを披露しよう。真理から離れずに語ろう。
6:23 また、人を滅ぼすねたみとも手を切ろう。ねたみは知恵と何のかかわりもないからだ。
6:24 知恵をもつ人が多ければ、世は救われ、/思慮深い王がいれば、民は繁栄する。
6:25 ゆえに、わたしの言葉を教訓とし、役立たせよ。
7章
*ソロモンの出生は皆と同じ
7:1 わたしも皆と同じく死すべき人間であり、/土で造られた最初の人の子孫である。母の胎内で肉となり、
7:2 十か月、血の中で形を整えた。男性の種と夫婦の楽しみによってである。
7:3 わたしも他の人と同じ空気を吸い、/同じ苦しみの地に生まれ、/最初に皆と同じ産声をあげ、
7:4 産着と心遣いに包まれて育った。
7:5 王の誕生といえども異なるものではない。
7:6 だれにとっても人生の始まりは同じであり、/終わりもまた等しい。
*知恵の値打ち
7:7 わたしは祈った。すると悟りが与えられ、/願うと、知恵の霊が訪れた。
7:8 わたしは知恵を王笏や王座よりも尊び、/知恵に比べれば、富も無に等しいと思った。
7:9 どんな宝石も知恵にまさるとは思わなかった。知恵の前では金も砂粒にすぎず、/知恵と比べれば銀も泥に等しい。
7:10 わたしは健康や容姿の美しさ以上に知恵を愛し、/光よりも知恵を選んだ。知恵の輝きは消えることがないからだ。
7:11 知恵と共にすべての善が、わたしを訪れた。知恵の手の中には量り難い富がある。
7:12 わたしはそれらをすべて楽しんだ。知恵が導いているからである。だが、知恵がその産みの親だとは知らなかった。
7:13 素直な心で学んだことを、惜しみなく伝えよう。わたしは知恵の富を隠すことはしない。
7:14 知恵は人間にとって無尽蔵の宝、/それを手に入れる人は神の友とされ、/知恵のもたらす教訓によって高められる。
7:15 知識に基づいて話す力、/恵みにふさわしく考える力を、/神がわたしに授けてくださるように。神こそ知恵の案内者、/知者たちの指導者であられるから。
7:16 すべては神の手の中にある。わたしたち自身も、わたしたちの言葉も、/どんな考えも、仕事の知識も。
7:17 存在するものについての正しい知識を、/神はわたしに授けられた。宇宙の秩序、元素の働きをわたしは知り、
7:18 時の始めと終わりと中間と、/天体の動きと季節の移り変わり、
7:19 年の周期と星の位置、
7:20 生き物の本性と野獣の本能、/もろもろの霊の力と人間の思考、/植物の種類と根の効用、
7:21 隠れたことも、あらわなこともわたしは知った。
7:22 万物の制作者、知恵に教えられたからである。
*知恵の特質
知恵には、理知に富む聖なる霊がある。この霊は単一で、多様で、軽妙な霊、/活発で、明白で、汚れなく、/明確で、害を与えず、善を好む、鋭敏な霊、
7:23 抵抗し難く、善を行い、人間愛に満ち、/堅固で、安全で、憂いがなく、/すべてを成し遂げ、すべてを見通す霊である。この霊は、ほかの理知的で、純粋で、/軽妙なすべての霊に浸透する。
7:24 知恵はどんな動きよりも軽やかで、/純粋さゆえにすべてに染み込み、すべてを貫く。
7:25 知恵は神の力の息吹、/全能者の栄光から発する純粋な輝きであるから、/汚れたものは何一つその中に入り込まない。
7:26 知恵は永遠の光の反映、/神の働きを映す曇りのない鏡、/神の善の姿である。
7:27 知恵はひとりであってもすべてができ、/自らは変わらずにすべてを新たにし、/世々にわたって清い魂に移り住み、/神の友と預言者とを育成する。
7:28 神は、知恵と共に住む者だけを愛される。
7:29 知恵は太陽よりも美しく、/すべての星座にまさり、/光よりもはるかに輝かしい。
7:30 光の後には夜が来る。しかし、知恵が悪に打ち負かされることはない。
8章
8:1 知恵は地の果てから果てまでその力を及ぼし、/慈しみ深くすべてをつかさどる。
*知恵に対するソロモンの愛
8:2 わたしは若いころから知恵を愛し、求めてきた。わたしの花嫁にしようと願い、/また、その美しさのとりこになった。
8:3 知恵は神と共に生き、その高貴な出生を誇り、/万物の主に愛されている。
8:4 知恵は神の認識にあずかり、/神の御業を見分けて行う。
8:5 人生において富が望ましい宝であるなら、/すべてを造る知恵より富むものがあるだろうか。
8:6 知性がものを造り出すというのなら、/万物の中で知恵にまさる造り手がいるだろうか。
8:7 だれか正義を愛する人がいるか。知恵こそ働いて徳を得させるのだ。すなわち、節制と賢明、/正義と勇気の徳を、知恵は教えるのである。人生にはこれらの徳よりも有益なものはない。
8:8 だれか幅広い体験を望む人がいるか。知恵こそ過去を知り、未来を推測し、/言葉の理解や、なぞの解釈に秀でており、/しるしや不思議、/季節や時の移り変わりを予見する。
8:9 わたしは、知恵と一緒に暮らそうと考えた。知恵が、善を勧めてくれ、/悩みや苦しみを慰めてくれることを/知っていたからである。
8:10 知恵のお陰でわたしは人々から誉れを受け、/若くても長老たちに尊敬される。
8:11 裁くときにはその鋭さを認められ、/権力者たちからは驚嘆の眼を向けられる。
8:12 わたしが黙れば人々は待ち、/声をあげれば耳を傾け、/長く話しても、手を口に当てて聞き入る。
8:13 わたしは知恵によって不滅を得、/後の世代にいつまでも記憶される。
8:14 わたしは諸国民を治め、国々を服従させよう。
8:15 残忍な王たちもわたしのことを聞いて恐れる。わたしは人々の間では恵み深く、/戦いのときは勇敢な者と見なされる。
8:16 わが家に戻れば知恵のお陰でくつろげる。知恵とのつきあいには苦さがなく、/知恵と共にある生活には苦労がない。それどころか、満足と喜びが味わえる。
8:17 わたしはこう考えて、/心の中で思い巡らした。知恵と縁を結べば死を免れ、
8:18 知恵と交わす愛には優れた楽しみがあり、/その手の業には量り難い富があると。また、知恵と語り合うことこそ賢明であり、/知恵と言葉を交わすことこそ名誉であると。そこでわたしは、/知恵をわがものにしようと巡り歩いた。
8:19 わたしは気立ての良い若者で、/善良な魂を恵まれていた。
8:20 いやむしろ、善良だったので、/わたしは清い体に入った。
8:21 わたしは知っている。神がくださるのでなければ、/知恵を得ることはできないことを。恵みの与え主を知るのは、賢明なことである。そこでわたしは主に向かい、/心の底からこう祈った。
9章
*知恵を求めるソロモンの祈り
9:1 「先祖たちの神、憐れみ深い主よ、/あなたは言によってすべてを造り、
9:2 知恵によって人を形づくられました。あなたが造られたものを人が治め、
9:3 信仰深く、義に基づいて世界を支配し、/公正な心で裁きを行うためです。
9:4 あなたの王座の傍らにいる知恵をわたしに授け、/あなたの子らの中から/わたしを取り除かないでください。
9:5 わたしはあなたの僕、あなたのはしための子、/弱く、はかない命の人間です。裁きと律法とをまだわきまえていません。
9:6 たとえ、人々の中に完全な者がいたとしても、/あなたの与えられる知恵を持たなければ、/その人には何の価値も認められません。
9:7 あなたはわたしを、御民の王に選ばれました、/あなたの息子や娘たちの裁き手として。
9:8 あなたはわたしに命じられました、/聖なる山に神殿を建てることを。あなたの住まわれる都に祭壇を築くことを、/あなたが初めから設計された/聖なる幕屋のかたどりを作ることを。
9:9 知恵はあなたと共にいて御業を知り、/世界をお造りになったとき、そこにいました。知恵は、あなたの目を喜ばすものは何か、/あなたの掟に適うものは何かを知っています。
9:10 どうぞ、聖なる天から知恵を遣わし、/あなたの栄光の座から知恵を送ってください。知恵がわたしと共にいて働き、/あなたの望まれることが何かを/わたしに悟らせるために。
9:11 知恵はすべてを知り、悟っています。英知をもってわたしの仕事を導き、/その栄光でわたしを守ってくれるでしょう。
9:12 そうすればわたしの業はあなたに喜ばれ、/わたしは御民を正しく裁き、/父の王座にふさわしい者となれるのです。
9:13 だが、神の計画を知りうる者がいるでしょうか。主の御旨を悟りうる者がいるでしょうか。
9:14 死すべき人間の考えは浅はかで、/わたしたちの思いは不確かです。
9:15 朽ちるべき体は魂の重荷となり、/地上の幕屋が、悩む心を圧迫します。
9:16 地上のことでさえかろうじて推し量り、/手中にあることさえ見いだすのに苦労するなら、/まして天上のことをだれが探り出せましょう。
9:17 あなたが知恵をお与えにならなかったなら、/天の高みから聖なる霊を遣わされなかったなら、/だれが御旨を知ることができたでしょうか。
9:18 こうして地に住む人間の道はまっすぐにされ、/人はあなたの望まれることを学ぶようになり、/知恵によって救われたのです。」
10章
10:1 世の父として最初に造られたただ一人の人を、/知恵は守り、犯した過ちから救い、
10:2 万物を治める力を彼に与えた。
10:3 しかし、かの悪人は/怒りのうちに知恵から遠ざかり、/憤って兄弟を殺し、滅び去った。
10:4 この者の罪のため水に覆われた大地を、/知恵は再び救い、/あの義人を、粗末な木材に乗せて導いた。
*イスラエルの始祖と知恵
10:5 諸国の民が一致して悪事を謀り、混乱したとき、/知恵は一人の義人に目を留めて、/神の前にとがのないよう守り、/わが子への情に打ち勝つ力を与えた。
10:6 神を信じない人々が滅ぼされたとき、/知恵はあの義人を救い出し、/五つの町に降りかかる火を逃れさせた。
10:7 それらの町の罪深さの証しとして、/土地は煙を吐き続け、/木は未熟な実しか結ばず、/あの不信仰な魂の証拠として塩の柱が残った。
10:8 知恵を見捨てたあの人々は、/罰として善の識別ができなくなったばかりか、/愚かさの証拠までも世に残した。それで彼らの悪事は隠れもない事実となった。
10:9 しかし、知恵は自分に仕える者を労苦から救った。
10:10 兄弟の怒りを逃れた義人を、/知恵は正しい道に導き、/神の国を彼に示し、/聖なる事柄についての知識を授け、/労苦を通して繁栄をもたらし、/その働きに対して豊かに報いた。
10:11 知恵は搾取する者の貪欲から彼をかばい、/彼を富ませた。
10:12 また、敵から守り、/陥れようとする者から彼を保護した。激しい格闘に勝たせ、/神を信じることこそ/すべてにまさる力であると悟らせた。
10:13 知恵は、売られた義人を見捨てず、/罪を免れさせた。
10:14 知恵は彼と共に牢に降り、/鎖につながれた彼を見放さず、/その手に王笏を握らせ、/圧迫する者どもを抑える力を与えた。中傷する者どもの偽りを暴き、/とわの栄えを彼に与えた。
*エジプト脱出と知恵
10:15 知恵は清い民、すなわち、とがのない種族を、/迫害者である民から解放した。
10:16 主の僕の魂に入り、不思議な業としるしをもって/恐るべき王たちに対抗した。
10:17 知恵は清い人々に労苦の報いを与え、/驚くべき道を通らせ、/昼間は彼らの避難所となり、/夜は彼らの星明かりとなった。
10:18 彼らに紅海を渡らせ、/大量の水の間を通らせた。
10:19 他方、彼らの敵をおぼれさせ、/海の深みから吐き出した。
10:20 このため神に従う者たちは、/神を信じない人々の所持品を分捕った。主よ、彼らは聖なる御名をたたえて歌い、/力強い御手を、心を合わせてほめたたえた。
10:21 知恵が、口の利けない者の口を開き、/幼児にもはっきりと語らせたからである。
11章
*荒れ野のイスラエルの知恵
11:1 知恵は彼らの業を、聖なる預言者の手で導いた。
11:2 彼らは人の住めない荒れ野をさまよい、/人の踏み入ったことのない地に幕屋を張った。
11:3 また、敵に立ち向かい、相手を打ち破った。
11:4 彼らはあなたに渇きを訴えた。すると、切り立つ岩から水が与えられ、/その固い石からの水で渇きがいやされた。
11:5 敵への罰に使われた水が、/苦境にあえぐ彼らには役立ったのである。
*罰と恵み
11:6 尽きぬ川の水は、腐った血でよどんだ。
11:7 ―これは、嬰児殺しを命じた者への/罰であった―/しかし、あなたは彼らに/思いがけずも豊かな水を与えられた。
11:8 そのときの彼らの渇きを通して、/敵の受けた罰の厳しさを彼らに示された。
11:9 憐れみによる懲らしめを受けた彼らは/怒りによる裁きを受けた不信仰な者たちの苦しみが/どんなものであったかを知った。
11:10 あなたは彼らには戒める父として試練を与え、/あの者たちには、厳しい王として罰を下された。
11:11 彼らがエジプトにいたときもそこを出たときも、/あの者たちは同じく苦しめられた。
11:12 過去の思い出にさいなまれて、/二重の苦しみに捕らわれたのだ。
11:13 自分たちへの罰が、相手の民を益したと聞いて/あの者たちはそこに主の働きを認めた。
11:14 かつて、川に投げ捨てられた者を、/あの者たちは嘲笑して追い払ったが、/事の成り行きを見て驚嘆した。神に従う人々と異なる渇きを覚えたからである。
11:15 あの者たちは愚かで不正な考えゆえに、/理性のない動物や卑しい獣を拝む過ちを犯した。あなたは、彼らを罰するために、/理性のない生き物を数多く送られた。
11:16 罪を犯すときに用いたその同じもので、/罰を受けることを、悟らせるために。
*神の力は忍耐によって示される
11:17 形のない素材から宇宙を造られた全能の手は、/数多くの熊やどう猛な獅子を遣わすことが/おできにならなかったわけではない。
11:18 あるいは、新しく造られた怒り狂う未知の動物、/火の息を吐き、/音を立てて煙を出し、/目から恐るべき火花を散らす動物も、
11:19 一かみで敵を全滅させうるばかりか、/恐るべき一にらみで絶滅させうる動物も。
11:20 たとえ動物を用いなくても、/一息で彼らを倒すことがおできになる。彼らを正義によって責めたて、/あなたの力ある息で滅ぼすことによって。しかしあなたは、長さや、数や、重さにおいて/すべてに均衡がとれるよう計らわれた。
11:21 常に偉大な力を備えておられるからである。あなたの御腕の力にだれが逆らえよう。
11:22 御前では、全宇宙は秤をわずかに傾ける塵、/朝早く地に降りる一滴の露にすぎない。
11:23 全能のゆえに、あなたはすべての人を憐れみ、/回心させようとして、人々の罪を見過ごされる。
11:24 あなたは存在するものすべてを愛し、/お造りになったものを何一つ嫌われない。憎んでおられるのなら、造られなかったはずだ。
11:25 あなたがお望みにならないのに存続し、/あなたが呼び出されないのに存在するものが/果たしてあるだろうか。
11:26 命を愛される主よ、すべてはあなたのもの、/あなたはすべてをいとおしまれる。
12章
12:1 あなたの不滅の霊がすべてのものの中にある。
12:2 主よ、あなたは罪に陥る者を少しずつ懲らしめ、/罪のきっかけを思い出させて人を諭される。悪を捨ててあなたを信じるようになるために。
12:3 あなたの聖なる土地に昔から住んでいた人々を、
12:4 その忌まわしい行いゆえに、あなたは憎まれた。魔術の業や神を汚す儀式を行う者、
12:5 無慈悲にも子を殺す者、/血をすすり人肉や内臓を食べる宴を開く者、/踊り狂う秘密の教団に入門し、
12:6 かよわいわが子の命を奪う親たち、/この者どもをあなたは、/わたしたちの先祖の手で滅ぼそうとされた。
12:7 あなたにとってすべての中で最も大切な土地が、/神の子らというふさわしい住民を/受け入れるために。
12:8 しかしあの者たちも人間であるということで、/あなたは彼らをいとおしまれ、/あなたの軍隊の先駆けとして熊蜂を送られた。彼らを徐々に滅ぼすためである。
12:9 神を信じない者たちを/戦いのさなかに、神に従う人々の手に渡し、/どう猛な獣や厳しい言葉で即座に滅ぼすことも、/あなたにとって不可能ではなかった。
12:10 しかし、あなたは徐々に罰を加えながら、/悔い改めの機会を与えておられた。彼らの血統が悪く、その悪意が生来のもので、/その思いが永久に変わらないことを、/ご存じであったにもかかわらず。
12:11 彼らは初めから呪われた人種であった。罪を犯した者に罰を加えられなかったのは、/あなたが、だれかを恐れたためではない。
12:12 「何故そんなことを」と、/あなたに向かって言える人がいるだろうか。あなたの判決に異議を唱える者がいるだろうか。あなたが造られた諸国の民を/あなたが滅ぼされたからといって、/だれがあなたを訴え出るだろうか。あなたに逆らう者たちの弁護を買って出て、/あなたと争う者がいるだろうか。
12:13 すべてに心を配る神はあなた以外におられない。だから、不正な裁きはしなかったと、/証言なさる必要はない。
12:14 あなたから罰を受けた者を弁護しようとして、/あなたに逆らって立つ王も支配者もいない。
12:15 あなたは正しい方、すべてを正しく治められる。罰に値しない者を罪に定めることは、/御自分の権能にふさわしくないと考えておられる。
12:16 あなたの力は正義の源、/あなたは万物を支配することによって、/すべてをいとおしむ方となられる。
12:17 あなたの全き権能を信じない者に/あなたは御力を示され、/知りつつ挑む者の高慢をとがめられる。
12:18 力を駆使されるあなたは、寛容をもって裁き、/大いなる慈悲をもってわたしたちを治められる。力を用いるのはいつでもお望みのまま。
12:19 神に従う人は人間への愛を持つべきことを、/あなたはこれらの業を通して御民に教えられた。こうして御民に希望を抱かせ、/罪からの回心をお与えになった。
12:20 あなたの僕らの敵、死の罰に値する者たちに/これほどの配慮と寛容を示され、/悪から離れる時と方法を授けられたとするなら、
12:21 ましてやあなたの子らを裁くにあたっては/どれほど慎重であられたことだろう。すばらしい約束についての誓いや契約を/あなたは彼らの先祖たちと/交わされたのだから。
12:22 あなたはわたしたちを懲らしめられたが、/敵には一万倍もの罰を下された。わたしたちが裁くとき、あなたの慈しみを思い、/裁かれるとき、憐れみに依り頼むためである。
*神の罰は信仰に導く
12:23 神に逆らって愚かな生活を送った者たちを、/あなたは忌むべき彼らの偶像で懲らしめられた。
12:24 彼らは道を外して途方もなくさまよい、/下等で卑しい動物を神々としてあがめ、/道理をわきまえない幼児のように欺かれた。
12:25 そのため、分別のない子供に対するように、/あなたは軽くあしらう程度の罰を下された。
12:26 しかし、手ぬるい懲らしめで回心しない者は、/神にふさわしい厳しい罰を味わうことになる。
12:27 以前自分たちが神々としてあがめていたものに/苦しめられて悩み、/それらを通して罰を受けたのを見たので、/それまで知ろうともしなかった方を/彼らは真の神として認めるようになった。こうして、最大の罰が彼らに下った。
*自然崇拝
13:1 神を知らない人々は皆、生来むなしい。彼らは目に見えるよいものを通して、/存在そのものである方を知ることができず、/作品を前にしても作者を知るに至らなかった。
13:2 かえって火や風や素早く動く空気、/星空や激しく流れる水、/天において光り輝くものなどを、/宇宙の支配者、神々と見なした。
13:3 その美しさに魅せられて/それらを神々と認めたなら、/それらを支配する主が/どれほど優れているかを知るべきだった。美の創始者がそれらを造られたからである。
13:4 もし宇宙の力と働きに心を打たれたなら、/天地を造られた方がどれほど力強い方であるか、/それらを通して知るべきだったのだ。
13:5 造られたものの偉大さと美しさから推し量り、/それらを造った方を認めるはずなのだから。
13:6 とはいえ、この人々の責めは軽い。神を探し求めて見いだそうと望みながらも、/彼らは迷っているのだ。
13:7 造られた世界にかかわりつつ探求を続けるとき、/目に映るものがあまりにも美しいので、/外観に心を奪われてしまうのである。
13:8だからといって彼らも弁解できるわけではない。
13:9 宇宙の働きを知り、/それを見極めるほどの力があるなら、/なぜそれらを支配する主を/もっと早く見いだせなかったのか。
*偶像崇拝
13:10 命のないものに望みをかける人々は惨めだ。彼らは、人の手で造られたものを神々と呼ぶ。技術の生み出した金銀の作品、/動物の像、/昔の人が加工した役に立たない石などを。
13:11 一人のきこりが手ごろな木を切り出し、/その皮をすべて念入りにはぎ、/巧みに手を加えて、/生活に役立つ器具を造り上げた。
13:12 仕事に使った木材の余りを燃やして、/食事を準備し、空腹を満たそうとした。
13:13 そのまた残りの、何の役にも立たない/ねじ曲がった、節目だらけの木片を、/仕事の合間に取り上げて注意深く彫った。暇つぶしとして巧みに形を整え、/それを人の姿に造り上げた。
13:14 取るに足りない何かの動物に似せ、/朱を使って表面を赤く色づけ、/汚れをすべて塗り隠した。
13:15 ふさわしい住みかをしつらえ、/壁の中に据え置いて、金具で固定した。
13:16 こうして、木像が落ちないように工夫した。その像が自分では何もできないことを/彼は知っていたからである。それは像にすぎず、人の助けを必要とする。
13:17 財産、結婚、子供のことで彼はその像に祈り、/魂のないものに語りかけるのを恥としない。その弱い像に健康を願い、
13:18 命のないものに命を乞い、/全く経験のないものに助けを求め、/自分の足さえ使えないものに旅の安全を祈る。
13:19 商売や事業や仕事の成功のために、/手を差し伸べる力もないものに彼は力を求める。
14:1 航海に出て荒波を越え行こうとする人は、/自分を運ぶ船よりももろい船首の木の像に/助けを求める。
14:2 利益を求める人間の欲望が船を考え出し、/船大工の知恵がそれを造った。
14:3 しかし父よ、船を導くのはあなたの摂理。あなたは海の中にも道を設け、/波の中にも安全な小道を造られた。
14:4 人をあらゆる危険から救う力のあることを/あなたは示されたので、/航海の技術のない者でも船に乗れる。
14:5 あなたは知恵の働きのやむことを望まれない。そのため人は極めて小さな船板にさえも命を託し、/木の舟で波を乗り越えて無事に航海ができた。
14:6 その昔、高慢な巨人たちが滅びたとき、/世の希望であったあの人は木の舟で難を逃れ、/御手に導かれ、後に続く世代の種を世に残した。
14:7 義を実現させたその木は祝福される。
14:8 しかし人の手で造られた偶像は、/その作者と共に呪われる。作者はそれを造ったからであり、偶像は/朽ちるものなのに神と呼ばれたからである。
14:9 神は不信仰な人も、その不信仰な行為をも/同じく憎まれる。
14:10 造られた物も造った人も共に罰を受ける。
14:11 そのため諸国の民の偶像にも裁きが下る。偶像は、被造物の中で忌むべきものとなり、/人の魂にとっては罪のもと、/愚か者の足にとっては罠となったからである。
14:12 偶像を考えつくことから姦淫が始まり、/偶像を造り出すことによって生活が堕落する。
14:13 偶像は初めからあったものではなく、/いつまでも続くものでもない。
14:14 それは人間の虚栄によって世に入って来た。だから速やかに滅びるように定められている。
14:15 息子の予期せぬ若死にに打ちのめされた父親が、/あまりにも早く取り去られたわが子の肖像を造り、/死んでしまった人間を今や神としてあがめ、/家の者たちに儀式や犠牲を義務づけた。
14:16 時とともに神を汚すしきたりが力を得、/法として守られるようになった。こうして、刻まれた像が支配者たちの命令で/礼拝されるようになり、
14:17 遠くに住んでいるために、直接支配者たちを/見て敬うことのできない人々は、/離れたところにいる彼らの姿を表すために、/尊敬すべき王に生き写しの肖像を造り上げた。その場にいない者を、あたかもいるかのように/熱心にへつらいあがめるためである。
14:18 偶像造りの野心は、/王を知らない人々をも駆り立てて、/偶像崇拝を広めさせた。
14:19 彼は権力者に取り入るため、腕を振るって/肖像を実際よりも美しいものに造り上げた。
14:20 多くの人は職人の見事なわざに引かれ、/先程まで人間として敬っていた者を、/今や、礼拝の対象と見なすようになった。
14:21 このことは人の生涯にとって罠となった。災難や権力に支配された人々が、/神聖な名を石や木に与えたから。
*偶像崇拝の結果
14:22 彼らは神を知る点で間違っただけではない。無知から生じた大きな戦いのうちに生きながら、/次の
ようなひどい悪事を平和と呼んでいる。
14:23 彼らは幼児殺しの犠牲や密儀、/奇怪なしぐさを伴うみだらな酒宴を行う。
14:24 生活も結婚も清くは保たず、/裏切って殺し合い、姦淫を犯しては苦しめ合う。
14:25 流血と殺害、盗みと偽りが至るところにあり、/堕落、不信、騒動、偽証
14:26 善人への迫害、恩恵の忘却、/魂の汚染、性の倒錯、/結婚の乱れ、姦淫、好色が至るところにある。
14:27 実体のない偶像を礼拝することは、/諸悪の始まりと源、そして結末である。
14:28 彼らは快楽に狂い、偽りの預言をし、/不正な生活を送って、軽々しく偽証する。
14:29 彼らは魂のない偶像に依り頼み、/不当な誓いをしても罰せられるとは思わない。
14:30 二とおりの罪のゆえに神は彼らを裁かれる。まず、偶像に依存して神のことを悪く考え、/次いで、神の清さをさげすみ、/不当にも偽って誓ったからである。
14:31 彼らが誓ったその神々の力ではなく、/罪人に対する神の罰こそが、/悪人の犯す過ちを常に懲らしめ続けるのである。
15章
15:1 神よ、あなたは慈しみ深く、真実な方。怒るに遅く、すべてを治める憐れみ深い方。
15:2 わたしたちは、たとえ罪を犯しても、/あなたのもの。あなたの力を知っている。でもわたしたちは罪は犯さない。あなたに属することを知っているから。
15:3 あなたを知ることこそ全き義、/あなたの力をわきまえることこそ不滅のもと。
15:4 人間の悪い思いつきも、/画家たちの無駄な労苦も、/さまざまな色で塗りたくられた肖像も、/わたしたちを迷わすことはなかった。
15:5 愚か者はそれらを見て欲望をそそられ、/魂の欠けた、命のない肖像にあこがれる。
15:6 偶像を造る者、あこがれる者、あがめる者は、/悪を愛する者たちで、/このようなむなしい希望に似つかわしい。
15:7 焼き物師は苦労して粘土をこね、/生活に役立つものを一つ一つこしらえる。同じ材料の土から、/高尚な用途のための器と、/そうでない器とが同じように造られる。それら一つ一つの用途を決めるのは、/焼き物師自身だ。
15:8 彼はまた、不当な労力を用いて、/同じ粘土からむなしい神を造り上げる。焼き物師自身、少し前に土から生まれ、/しばらくすればまた元の土に戻る。借りていた魂の返済を求められるからだ。
15:9 しかし、彼が気にかけているのは、/病に倒れることでも、余命の短いことでもない。金銀の細工師と技を競うこと、/銅の細工師をまねることである。彼は偽物造りを栄誉とする。
15:10 彼の心は灰、その希望は土よりもむなしく、/その命は泥よりも卑しい。
15:11 なぜなら、自分を造ってくださった方、/活動する魂を吹き込んでくださった方、/生かす霊を注いでくださった方を、/知るに至らなかったからである。
15:12 かえって人生を遊び事と見なし、/生活を金もうけのできる催し物と考えて、/どんなことからも、たとえ悪からでも、/利を得るべきだと言う。
15:13 自分が罪を犯していることを、/彼は他のだれよりも知っている。土を材料にして、器と偶像を造ったから。
*エジプト人への罰とイスラエル人への恵み
15:14 最も愚かで、赤子の魂よりも哀れなものは、/あなたの民を虐げるあの敵どもである。
15:15 諸国民の偶像をみな神々と見なした。その偶像は、目があっても見ることができず、/鼻があっても息ができず、/耳があっても聞くことができず、/手に指があっても触ることができず、/足があっても歩くことができない。
15:16 偶像を造ったのは人間、/霊を貸し与えられている人間がそれを造った。人は、自分に等しい神をさえ造れないのだ。
15:17 死すべき人間が、/その不法の手で造り出す偶像には、命がない。拝まれる偶像より、人間の方が価値がある。人間には命があるが、偶像にはないからだ。
15:18 最も忌まわしい動物、/他の動物よりずっと愚かなものを、彼らは拝む。
15:19 それらは、人の目を喜ばせるような、/動物としての魅力さえ欠いており、/神の称賛と祝福から見放されている。
16章
16:1 このため彼らは、そのような動物によって/当然の罰を受け、/多くの生き物によって苦しめられた。
16:2 これらの罰とは逆に、/あなたは御自分の民には恵みを与え/旺盛な食欲を満たすうずらを/珍味な食物として与えてくださった。
16:3 まさに食事をしようとしていたあの敵どもは、/送られてきた生き物のあまりの醜さに、/せっかくの食欲さえ失った。それにひきかえ、この民は/しばらくひもじい思いをした後に、/珍味な食物にありついた。
16:4 圧迫者たちは困窮を味わうことが必要だったが、/この民は、敵がいかに苦しめられたかを/示されるだけで十分だった。
16:5 動物の恐るべき怒りがこの民を襲い、/彼らがくねった毒蛇にかまれて/滅びようとしたとき、/あなたの怒りは途中でやんだ。
16:6 彼らは懲らしめられてしばらくの間動揺したが、/あなたの律法の戒めを思い出させる/救いのしるしが与えられた。
16:7 そのしるしを仰ぎ見た者は、/目に映ったしるしによってではなく、/万物の救い主であるあなたによって救われた。
16:8 これによってあなたは、敵どもに示された、/御自分がすべての悪から人を救う方であることを。
16:9 彼らは、いなごとあぶに襲われて死んだ。彼らを救う手だてはなく、/そのような罰は当然だった。
16:10 しかし、あなたの子らには/毒蛇の牙も勝てなかった。あなたの憐れみが下り、彼らをいやしたからだ。
16:11 彼らがかまれて、またすぐいやされたのは、/あなたの言葉を思い出させるためだった。忘却の淵に沈められることなく、/あなたの恵みから外されることのないためだ。
16:12 主よ、彼らをいやしたのは、/薬草や塗り薬ではなく、/すべてをいやすあなたの言葉であった。
16:13 あなたは生死をつかさどる権能をもち、/人を陰府の門まで連れ行き、また連れ戻される。
16:14 しかし、人は悪意から他人を殺せたとしても、/去って行った霊を連れ戻すことはできず、/陰府に閉じ込められた魂を/解放することもできない。
16:15 あなたの手から逃れることは不可能だ。
16:16 あなたを認めようとしない不信仰な人々は、/御腕の力で罰せられ、/時ならぬ雨や雹、それに無情な嵐に悩まされ、/火で焼き尽くされてしまった。
16:17 すべてを消す水の中でも/不思議なことにその火はますます強くなる。神に従う人に全宇宙が味方するからだ。
16:18 時として、炎は弱まるが、/それは不信仰な者に罰として送られた動物が/焼き尽くされてしまわないためである。また、神の裁きが迫っていることを、/それを見る敵どもに悟らせるためである。
16:19 ときには水の中でさえ、/火はその力を超えて燃え盛った。悪人の地の作物を焼き尽くすために。
16:20 他方、あなたは天使の食物で民を養われ、/神が用意された天のパンを、/民は苦労することなく手に入れた。それはこの上なく美味で、だれの口にも合った。
16:21 この食べ物は、子らへのあなたの優しさを表し、/それを食べる人の好みに応じて、/望みの味に変わった。
16:22 雪と氷は火に耐えて解けなかった。それは、雹の降る中で燃え盛る火、/雨の中で輝く火が、/敵どもの収穫を台なしにしたことを、/民に知らせるためであった。
16:23 それにひきかえ、神に従う人々を養うために、/火は本来の力をさえ忘れてしまった。
*自然は主に仕える
16:24 実に被造物は創造主であるあなたに仕え、/あなたに逆らう者を罰するためには/厳しいものとなり、/あなたに信頼する人を恵むためには/優しいものとなる。
16:25 それゆえ被造物はあのときもあらゆる形をとり、/万物を賜物によって養うあなたの僕となって、/逆境にある人々の望みに応じた。
16:26 主よ、それはあなたの愛された子らが/学ぶためであった。人を養うのはもろもろの収穫物ではなく、/信じる人を守るあなたの言葉であることを。
16:27 なぜなら火によっても解けなかったものが、/太陽のわずかな光で暖められただけで、/すぐに解けてしまったからである。
16:28 これは、あなたに感謝するために/日が昇るより早く起き、/光が射す前に礼拝すべきであることを、/彼らに分からせるためだった。
16:29 感謝を知らない者の希望は冬の霜のように解け、/無用な水のように流れ去ってしまうからである。
17章
*光と闇
17:1 あなたの裁きは偉大で、究め尽くせない。そのため、教訓を拒んだ魂は、迷いに陥った。
17:2 律法のない者たちは、/聖なる民を制圧できると考えた。だが、闇に縛られ、長い夜に捕らえられて、/家の中に閉じ込められ、不変の摂理から外された。
17:3 彼らはひそかに行っていたあの罪の中に、/忘却の暗い覆いの中に隠れうると考えた。しかし、彼らは打ち散らされ、恐怖に取りつかれて、/幻覚におびえた。
17:4 彼らが身を寄せた隠れがも、/恐怖から守ってはくれなかった。恐ろしい音が周囲で鳴り響き、/悲しげな顔つきの不気味な亡霊が現れた。
17:5 火は光を発する力がなく、/輝く星のきらめきも、/あの恐るべき夜を照らすことはできなかった。
17:6 彼らの前には、自然に発した/恐ろしい火が現れた。彼らは、本当は見ていないその光景を、恐れ、/目に映ったものがいっそう恐ろしく感じられた。
17:7 彼らの魔術は威力を失い、/その思い上がった考えをとがめられて恥を受けた。
17:8 傷ついた魂の/恐れと煩いを取り除くと豪語した彼ら自身が、/取るに足らぬ恐れに傷ついた。
17: 9 驚き、恐れさせるものは何もなかったのに、/彼らは獣の動きや、蛇の発する音におびえ、
17:10 おののきつつ死んでいった。避けることのできない周りの空気にさえ/顔を背けようとしたのだ。
17:11 悪は、自らの証言によって断罪されるとき、おびえ、/良心のとがめを受けるとき、/いっそう不安にかられる。
17:12 恐れとは、まさに理性の助けを捨てることである。
17:13 理性の助けに頼る心が弱ければ弱いほど、/苦しみの原因がますます分からなくなる。
17:14 彼らは、何もできなかったあの夜、/無力な陰府の深みから出て来たあの夜の間、/皆一斉に眠り込み、
17:15 奇怪な亡霊に悩まされるか、/気力を失って身動きできなくなるかして、/突然、予期しなかった恐怖に捕らえられた。
17:16 こうして、その場にいた人は皆倒れ、/鉄格子のない牢獄に閉じ込められた。
17:17 農夫であれ、牧者であれ、/人里離れた場所で苦労して働く者であれ、/この避けられない運命に見舞われた。
17:18 いずれも同じ闇の鎖につながれたのだ。吹く風の音、/葉の茂る枝に飛び交う鳥の心地よい歌声、/力強く流れる水の調べ、
17:19 崩れ落ちる岩石の乾いた音、/跳びはねる動物の気配、/凶暴な野獣のうなり声、/山の洞窟にこだまするやまびこ、/これらが彼らを恐怖で金縛りにした。
17:20 全世界は輝かしい光に照らされ、/何の妨げもなく活動していた。
17:21 それなのに、彼らの上には/夜が重くのしかかっていた。彼らを包み込もうとする暗闇の前ぶれが。しかし彼らは闇よりも/自分自身を重荷に感じていた。
18章
*光と闇(17章より続き)
18:1 あなたに清められた人々に大いなる光が輝いた。敵どもは、彼らの姿を見なくても、声を聞き、/これほどの苦しみは味わわなかったと、/彼らを幸せな者と呼んだ。
18:2 迫害されても、仕返ししない彼らに、/敵どもは感謝した。そして、不和であったことの赦しを願った。
18:3 あなたは、御民には燃える火の柱を与えて、/未知の旅の案内者とし、/栄えある放浪の旅の、/彼らを苦しめることのない太陽とされた。
18:4 他方敵どもは、当然なことに光を奪われ、/闇につながれた。あなたの子らをとりこにしたからである。あなたの子らこそ律法の不滅の光を/世に伝えるはずであった。
18:5 あなたに清められた人々の乳飲み子たちを、/彼らは殺そうとした。そのとき一人の子が捨てられて、救われた。あなたは罰として、彼らの多くの子供を奪い、/また大波で彼らを一挙に滅ぼされた。
18:6 あの夜のことは、我々の先祖たちに/前もって知らされており、/彼らはあなたの約束を知って/それを信じていたので、/動揺することなく安心していられた。
18:7 神に従う人々の救いと、敵どもの滅びを、/あなたの民は待っていた。
18:8 あなたは、反対者への罰に用いたその出来事で、/わたしたちを招き、光栄を与えてくださった。
18:9 善き民の清い子らは、ひそかにいけにえを献げ、/神聖な掟を守ることを全員一致で取り決めた。それは、聖なる民が、順境も逆境も/心を合わせて受け止めるということである。そのとき彼らは先祖たちの賛歌をうたっていた。
18:10 その歌には、敵どもの叫びが不調和にこだまし、/子らを悼む嘆きの声が悲しげに響いた。
18:11 敵どもは奴隷も主人も同じ罰で懲らしめられ、/庶民も王も同じ苦しみを味わった。
18:12 死という一つの名の下に、/数えきれない人々が倒され、/死者を葬るのに、生存者の数が足りなかった。彼らの最も貴重な跡継ぎも、一瞬のうちに滅んだ。
18:13 魔術に頼って神を一切信じなかった彼らは、/長男の死を見たとき、この民を神の子と認めた。
18:14 沈黙の静けさがすべてを包み、/夜が速やかな歩みで半ばに達したとき、
18:15 あなたの全能の言葉は天の王座から、/情け容赦のないつわもののように、/この滅びの地に下った。
18:16 それは、取り消しのきかないあなたの命令を/鋭い剣のように手にして、/すべてを死で満たし、/天に触れながらも、地を踏んで立っていた。
18:17 恐ろしい夢の中で幻が/敵どもを驚かせ、/思いがけない恐怖が彼らを襲った。
18:18 彼らは息絶え絶えとなってここかしこに倒れ/自分たちの死にゆく理由を世に明らかにした。
18:19 彼らを悩ませたあの夢がそれを予告していた。自分たちがなぜ苦しむのかその理由も知らずに/死んでゆくことのないために。
*民の仲介者
18:20 死の試練は神に従う人々にも与えられ、/荒れ野で多くの人々が滅びた。しかし、あなたの怒りは長くは続かなかった。
18:21 とがめられるところのない一人の人が/速やかに代表戦士として立ち、/自分にゆだねられた祭司の任務を武器として、/祈りと、香りによる贖いを献げたからである。そして、御怒りの前に身を置き、災いを終わらせ、/あなたの僕であることを示した。
18:22 彼が御怒りに打ち勝ったのは、/体力や、武力によってではない。言葉によって、罰する方を説得し、/先祖たちと交わされた誓いと契約を/思い出していただいたのである。
18:23 死んだ者は既に重なり合って倒れていた。そのとき彼は間に立って罰の攻撃を押しとどめ、/それが生きている者に及ぶ道を断ち切った。
18:24 彼の足まで届く衣は全宇宙を示しており、/先祖たちの誉れは四列に並ぶ宝石に刻まれ、/あなたの威光は頭上の冠に輝いていた。
18:25 滅ぼす者はこれらを前にしてたじろぎ、恐れた。民は御怒りに触れるだけで十分だったのである。
19章
19:1 神を信じない者たちには、/容赦のない怒りが下った。彼らが後に何をするかを、/主はあらかじめご存じだった。
19:2 彼らが民の出国を許し、/せきたてて追い出した後で、/後悔して追いかけることをご存じだった。
19:3 事実、まだ喪が明けず、/死者の墓前で嘆きの声が聞こえるというのに、/彼らは再び正気のさたとは思えない考えを抱き、/前には頼んで出て行ってもらった人々を、/今度は逃亡者として追い始めた。
19:4 彼らがこの極端な行為に走り、過去を忘れたのは、/当然の成り行きだった。彼らの罰の欠けている分を、/これらの苦しみで補わせるためであり、
19:5 また、民が予期せぬ旅を経験している間、/敵どもは異常な死に出会うためであった。
19:6 全被造物はそれぞれ本性を保ちつつ、/新たな姿に変えられ、御命令に服従して、/あなたの子らを無事に守った。
19:7 雲は宿営を覆い、/以前水のあったところには乾いた地が現れ、/紅海には妨げるもののない道ができ、/逆巻く波からは草の生えている平野が出現した。
19:8 驚くべき奇跡を目の当たりにしながら、/そこを民全体が御手に守られて渡って行った。
19:9 彼らは、牧場の馬のように走り回り、/小羊のように跳びはね、/主よ、自分たちを救ってくださったあなたを/たたえた。
19:10 彼らは寄留地での出来事を、思い起こした。土が動物ではなく、ぶよを生じさせ、/川が魚ではなく、多くの蛙を吐き出したことを。
19:11 しかしその後、彼らは鳥の新たな発生をも見た。それは彼らが、欲望にかられ、/美味な食べ物を求めたときであった。
19:12 海からうずらが飛んで来て、彼らは満たされた。
19:13 罰が罪人たちの上に下った。激しい雷による警告の後のことである。彼らはその罪のゆえに当然の苦しみを受けた。他国人を敵意をもってひどく扱ったからである。
19:14 見知らぬ人々がやって来たとき、/彼らを受け入れなかった民はあった。しかしこの者たちは、/利益をもたらしてくれた客人を奴隷にした。
19:15 あの民は、よそから来た者を、/敵意をもってあしらったので、裁きを受けた。それならば、この者たちはなおさら裁かれる。
19:16 彼らは実に、よそから来た者を大歓迎し、/自分たちと同じ権利を与えておきながら、/つらい労働を課して虐待したのである。
19:17 この者たちは目をくらまされた。あの義人の家の戸口で人々に起こったように。彼らは濃い闇に覆われ、/めいめい自分の家の戸口を探したのである。
19:18 自然の要素がそれぞれの関係を変えるのは、/竪琴の絃がその調べを変えるのに似ている。しかし、音色そのものは常に同じである。このことは、過去の出来事に照らして明らかだ。
19:19 陸の生き物は水に住む生き物に変わり、/水中を泳ぐ生き物は地上に移って来た。
19:20 火は水の中で火力を増し、/水は火を消す働きを忘れた。
19:21 炎は、かよわい生き物がその中を歩いても、/その肉を焦がすことすらなく、/氷のように解けやすい天からの食べ物も/解かすことはなかった。
*結び
19:22 主よ、あなたはすべてにおいて民を/大いなる者とし、栄光を与えられた。あなたは、彼らを見捨てず、いつでもどこでも/彼らの傍らに立っておられた。