『賢く生きよう』
ーユダヤ人の知恵に学ぶー
日本聖書協会新共同訳旧約聖書
コヘレトの言葉
(伝道の書)
12章
12:1 青春の日々にこそ、お前の創造主に心を留めよ。苦しみの日々が来ないうちに。「年を重ねることに喜びはない」と/言う年齢にならないうちに。
12:2 太陽が闇に変わらないうちに。月や星の光がうせないうちに。雨の後にまた雲が戻って来ないうちに。
12:3 その日には/家を守る男も震え、力ある男も身を屈める。粉ひく女の数は減って行き、失われ/窓から眺める女の目はかすむ。
12:4 通りでは門が閉ざされ、粉ひく音はやむ。鳥の声に起き上がっても、歌の節は低くなる。
12:5 人は高いところを恐れ、道にはおののきがある。アーモンドの花は咲き、いなごは重荷を負い/アビヨナは実をつける。人は永遠の家へ去り、泣き手は町を巡る。
12:6 白銀の糸は断たれ、黄金の鉢は砕ける。泉のほとりに壺は割れ、井戸車は砕けて落ちる。
12:7 塵は元の大地に帰り、霊は与え主である神に帰る。
12:8 なんと空しいことか、とコヘレトは言う。すべては空しい、と。
12:9 コヘレトは知恵を深めるにつれて、より良く民を教え、知識を与えた。多くの格言を吟味し、研究し、編集した。
12:10 コヘレトは望ましい語句を探し求め、真理の言葉を忠実に記録しようとした。
12:11 賢者の言葉はすべて、突き棒や釘。ただひとりの牧者に由来し、収集家が編集した。
12:12 それらよりもなお、わが子よ、心せよ。書物はいくら記してもきりがない。学びすぎれば体が疲れる。
12:13 すべてに耳を傾けて得た結論。「神を畏れ、その戒めを守れ。」これこそ、人間のすべて。
12:14 神は、善をも悪をも/一切の業を、隠れたこともすべて/裁きの座に引き出されるであろう。
11章
11:1 あなたのパンを水に浮かべて流すがよい。月日がたってから、それを見いだすだろう。
11:2 七人と、八人とすら、分かち合っておけ/国にどのような災いが起こるか/分かったものではない。
11:3 雨が雲に満ちれば、それは地に滴る。南風に倒されても北風に倒されても/木はその倒れたところに横たわる。
11:4 風向きを気にすれば種は蒔けない。雲行きを気にすれば刈り入れはできない。
11:5 妊婦の胎内で霊や骨組がどの様になるのかも分からないのに、すべてのことを成し遂げられる神の業が分かるわけはない。
11:6 朝、種を蒔け、夜にも手を休めるな。実を結ぶのはあれかこれか/それとも両方なのか、分からないのだから。
11:7 光は快く、太陽を見るのは楽しい。
11:8 長生きし、喜びに満ちているときにも/暗い日々も多くあろうことを忘れないように。何が来ようとすべて空しい。
11:9 若者よ、お前の若さを喜ぶがよい。青年時代を楽しく過ごせ。心にかなう道を、目に映るところに従って行け。知っておくがよい/神はそれらすべてについて/お前を裁きの座に連れて行かれると。
11:10 心から悩みを去り、肉体から苦しみを除け。若さも青春も空しい。
10章
10:1 死んだ蠅は香料作りの香油を腐らせ、臭くする。僅かな愚行は知恵や名誉より高くつく。
10:2 賢者の心は右へ、愚者の心は左へ。
10:3 愚者は道行くときすら愚かで/だれにでも自分は愚者だと言いふらす。
10:4 主人の気持があなたに対してたかぶっても/その場を離れるな。落ち着けば、大きな過ちも見逃してもらえる。
10:5 太陽の下に、災難なことがあるのを見た。君主の誤りで
10:6 愚者が甚だしく高められるかと思えば/金持ちが身を低くして座す。
10:7 奴隷が馬に乗って行くかと思えば/君侯が奴隷のように徒歩で行く。
10:8 落とし穴を掘る者は自らそこに落ち/石垣を破る者は蛇にかまれる。
10:9 石を切り出す者は石に傷つき/木を割る者は木の難に遭う。
10:10 なまった斧を研いでおけば力が要らない。知恵を備えておけば利益がある。
10:11 呪文も唱えぬ先に蛇がかみつけば/呪術師には何の利益もない。
10:12 賢者の口の言葉は恵み。愚者の唇は彼自身を呑み込む。
10:13 愚者はたわ言をもって口を開き/うわ言をもって口を閉ざす。
10:14 愚者は口数が多い。未来のことはだれにも分からない。死後どうなるのか、誰が教えてくれよう。
10:15 愚者は労苦してみたところで疲れるだけだ。都に行く道さえ知らないのだから。
10:16 いかに不幸なことか/王が召し使いのようで/役人らが朝から食い散らしている国よ。
10:17 いかに幸いなことか/王が高貴な生まれで/役人らがしかるべきときに食事をし/決して酔わず、力に満ちている国よ。
10:18 両手が垂れていれば家は漏り/両腕が怠惰なら梁は落ちる。
10:19 食事をするのは笑うため。酒は人生を楽しむため。銀はすべてにこたえてくれる。
10:20 親友に向かってすら王を呪うな。寝室ですら金持ちを呪うな。空の鳥がその声を伝え/翼あるものがその言葉を告げる。
9章
9:1 わたしは心を尽くして次のようなことを明らかにした。すなわち/善人、賢人、そして彼らの働きは/神の手の中にある。愛も、憎しみも、人間は知らない。人間の前にあるすべてのことは
9:2 何事も同じで/同じひとつのことが善人にも悪人にも良い人にも/清い人にも不浄な人にも/いけにえをささげる人にもささげない人にも臨む。良い人に起こることが罪を犯す人にも起こり/誓いを立てる人に起こることが/誓いを恐れる人にも起こる。
9:3 太陽の下に起こるすべてのことの中で最も悪いのは、だれにでも同じひとつのことが臨むこと、その上、生きている間、人の心は悪に満ち、思いは狂っていて、その後は死ぬだけだということ。
9:4 命あるもののうちに数えられてさえいれば/まだ安心だ。犬でも、生きていれば、死んだ獅子よりましだ。
9:5 生きているものは、少なくとも知っている/自分はやがて死ぬ、ということを。しかし、死者はもう何ひとつ知らない。彼らはもう報いを受けることもなく/彼らの名は忘れられる。
9:6 その愛も憎しみも、情熱も、既に消えうせ/太陽の下に起こることのどれひとつにも/もう何のかかわりもない。
9:7 さあ、喜んであなたのパンを食べ/気持よくあなたの酒を飲むがよい。あなたの業を神は受け入れていてくださる。
9:8 どのようなときも純白の衣を着て/頭には香油を絶やすな。
9:9 太陽の下、与えられた空しい人生の日々/愛する妻と共に楽しく生きるがよい。それが、太陽の下で労苦するあなたへの/人生と労苦の報いなのだ。
9:10 何によらず手をつけたことは熱心にするがよい。いつかは行かなければならないあの陰府には/仕事も企ても、知恵も知識も、もうないのだ。
9:11 太陽の下、再びわたしは見た。足の速い者が競争に、強い者が戦いに/必ずしも勝つとは言えない。知恵があるといってパンにありつくのでも/聡明だからといって富を得るのでも/知識があるといって好意をもたれるのでもない。時と機会はだれにも臨むが
9:12 人間がその時を知らないだけだ。魚が運悪く網にかかったり/鳥が罠にかかったりするように/人間も突然不運に見舞われ、罠にかかる。
9:13 わたしはまた太陽の下に、知恵について次のような実例を見て、強い印象を受けた。
9:14 ある小さな町に僅かの住民がいた。そこへ強大な王が攻めて来て包囲し、大きな攻城堡塁を築いた。
9:15 その町に一人の貧しい賢人がいて、知恵によって町を救った。しかし、貧しいこの人のことは、だれの口にものぼらなかった。
9:16 それで、わたしは言った。知恵は力にまさるというが/この貧しい人の知恵は侮られ/その言葉は聞かれない。
9:17 支配者が愚か者の中で叫ぶよりは/賢者の静かに説く言葉が聞かれるものだ。
9:18 知恵は武器にまさる。一度の過ちは多くの善をそこなう。
8章
◆知恵の勧め
8:1 知恵が呼びかけ/英知が声をあげているではないか。
8:2 高い所に登り、道のほとり、四つ角に立ち
8:3 城門の傍ら、町の入り口/城門の通路で呼ばわっている。
8:4 「人よ/あなたたちに向かってわたしは呼びかける。人の子らに向かってわたしは声をあげる。
8:5 浅はかな者は熟慮することを覚え/愚か者は反省することを覚えよ。
8:6 聞け、わたしは指導者として語る。わたしは唇を開き、公平について述べ
8:7 わたしの口はまことを唱える。わたしの唇は背信を忌むべきこととし
8:8 わたしの口の言葉はすべて正しく/よこしまなことも曲がったことも含んでいない。
8:9 理解力のある人には/それがすべて正しいと分かる。知識に到達した人には/それがすべてまっすぐであると分かる。
8:10 銀よりもむしろ、わたしの諭しを受け入れ/精選された金よりも、知識を受け入れよ。
8:11 知恵は真珠にまさり/どのような財宝も比べることはできない。
8:12 わたしは知恵。熟慮と共に住まい/知識と慎重さを備えている。
8:13 主を畏れることは、悪を憎むこと。傲慢、驕り、悪の道/暴言をはく口を、わたしは憎む。
8:14 わたしは勧告し、成功させる。わたしは見分ける力であり、威力をもつ。
8:15 わたしによって王は君臨し/支配者は正しい掟を定める。
8:16 君侯、自由人、正しい裁きを行う人は皆/わたしによって治める。
8:17 わたしを愛する人をわたしも愛し/わたしを捜し求める人はわたしを見いだす。
8:18 わたしのもとには富と名誉があり/すぐれた財産と慈善もある。
8:19 わたしの与える実りは/どのような金、純金にもまさり/わたしのもたらす収穫は/精選された銀にまさる。
8:20 慈善の道をわたしは歩き/正義の道をわたしは進む。
8:21 わたしを愛する人は嗣業を得る。わたしは彼らの倉を満たす。
8:22 主は、その道の初めにわたしを造られた。いにしえの御業になお、先立って。
8:23 永遠の昔、わたしは祝別されていた。太初、大地に先立って。
8:24 わたしは生み出されていた/深淵も水のみなぎる源も、まだ存在しないとき。
8:25 山々の基も据えられてはおらず、丘もなかったが/わたしは生み出されていた。
8:26 大地も野も、地上の最初の塵も/まだ造られていなかった。
8:27 わたしはそこにいた/主が天をその位置に備え/深淵の面に輪を描いて境界とされたとき
8:28 主が上から雲に力をもたせ/深淵の源に勢いを与えられたとき
8:29 この原始の海に境界を定め/水が岸を越えないようにし/大地の基を定められたとき。
8:30 御もとにあって、わたしは巧みな者となり/日々、主を楽しませる者となって/絶えず主の御前で楽を奏し
8:31 主の造られたこの地上の人々と共に楽を奏し/人の子らと共に楽しむ。
8:32 さて、子らよ、わたしに聞き従え。わたしの道を守る者は、いかに幸いなことか。
8:33 諭しに聞き従って知恵を得よ。なおざりにしてはならない。
8:34 わたしに聞き従う者、日々、わたしの扉をうかがい/戸口の柱を見守る者は、いかに幸いなことか。
8:35 わたしを見いだす者は命を見いだし/主に喜び迎えていただくことができる。
8:36 わたしを見失う者は魂をそこなう。わたしを憎む者は死を愛する者。」
7章
7:1 名声は香油にまさる。死ぬ日は生まれる日にまさる。
7:2 弔いの家に行くのは/酒宴の家に行くのにまさる。そこには人皆の終りがある。命あるものよ、心せよ。
7:3 悩みは笑いにまさる。顔が曇るにつれて心は安らぐ。
7:4 賢者の心は弔いの家に/愚者の心は快楽の家に。
7:5 賢者の叱責を聞くのは/愚者の賛美を聞くのにまさる。
7:6 愚者の笑いは鍋の下にはぜる柴の音。これまた空しい。
7:7 賢者さえも、虐げられれば狂い/賄賂をもらえば理性を失う。
7:8 事の終りは始めにまさる。気位が高いよりも気が長いのがよい。
7:9 気短に怒るな。怒りは愚者の胸に宿るもの。
7:10 昔の方がよかったのはなぜだろうかと言うな。それは賢い問いではない。
7:11 知恵は遺産に劣らず良いもの。日の光を見る者の役に立つ。
7:12 知恵の陰に宿れば銀の陰に宿る、というが/知っておくがよい/知恵はその持ち主に命を与える、と。
7:13 神の御業を見よ。神が曲げたものを、誰が直しえようか。
7:14 順境には楽しめ、逆境にはこう考えよ/人が未来について無知であるようにと/神はこの両者を併せ造られた、と。
7:15 この空しい人生の日々に/わたしはすべてを見極めた。善人がその善のゆえに滅びることもあり/悪人がその悪のゆえに長らえることもある。
7:16 善人すぎるな、賢すぎるな/どうして滅びてよかろう。
7:17 悪事をすごすな、愚かすぎるな/どうして時も来ないのに死んでよかろう。
7:18 一つのことをつかむのはよいが/ほかのことからも手を放してはいけない。神を畏れ敬えば/どちらをも成し遂げることができる。
7:19 知恵は賢者を力づけて/町にいる十人の権力者よりも強くする。
7:20 善のみ行って罪を犯さないような人間は/この地上にはいない。
7:21 人の言うことをいちいち気にするな。そうすれば、僕があなたを呪っても/聞き流していられる。
7:22 あなた自身も何度となく他人を呪ったことを/あなたの心はよく知っているはずだ。
7:23 わたしはこういうことをすべて/知恵を尽くして試してみた。賢者でありたいと思ったが/それはわたしから遠いことであった。
7:24 存在したことは、はるかに遠く/その深い深いところを誰が見いだせようか。
7:25 わたしは熱心に知識を求め/知恵と結論を追求し/悪は愚行、愚行は狂気であることを/悟ろうとした。
7:26 わたしの見いだしたところでは/死よりも、罠よりも、苦い女がある。その心は網、その手は枷。神に善人と認められた人は彼女を免れるが/一歩誤れば、そのとりことなる。
7:27 見よ、これがわたしの見いだしたところ/―コヘレトの言葉―/ひとつひとつ調べて見いだした結論。
7:28 わたしの魂はなお尋ね求めて見いださなかった。千人に一人という男はいたが/千人に一人として、良い女は見いださなかった。
7:29 ただし見よ、見いだしたことがある。神は人間をまっすぐに造られたが/人間は複雑な考え方をしたがる、ということ。
6章
6:1 太陽の下に、次のような不幸があって、人間を大きく支配しているのをわたしは見た。
6:2 ある人に神は富、財宝、名誉を与え、この人の望むところは何ひとつ欠けていなかった。しかし神は、彼がそれを自ら享受することを許されなかったので、他人がそれを得ることになった。これまた空しく、大いに不幸なことだ。
6:3 人が百人の子を持ち、長寿を全うしたとする。しかし、長生きしながら、財産に満足もせず/死んで葬儀もしてもらえなかったなら/流産の子の方が好運だとわたしは言おう。
6:4 その子は空しく生まれ、闇の中に去り/その名は闇に隠される。
6:5 太陽の光を見ることも知ることもない。しかし、その子の方が安らかだ。
6:6 たとえ、千年の長寿を二度繰り返したとしても、幸福でなかったなら、何になろう。すべてのものは同じひとつの所に行くのだから。
6:7 人の労苦はすべて口のためだが/それでも食欲は満たされない。
6:8 賢者は愚者にまさる益を得ようか。人生の歩き方を知っていることが/貧しい人に何かの益となろうか。
6:9 欲望が行きすぎるよりも/目の前に見えているものが良い。これまた空しく、風を追うようなことだ。
6:10 これまでに存在したものは/すべて、名前を与えられている。人間とは何ものなのかも知られている。自分より強いものを訴えることはできない。
6:11 言葉が多ければ空しさも増すものだ。人間にとって、それが何になろう。
6:12 短く空しい人生の日々を、影のように過ごす人間にとって、幸福とは何かを誰が知ろう。人間、その一生の後はどうなるのかを教えてくれるものは、太陽の下にはいない。
5章
5:1 焦って口を開き、心せいて/神の前に言葉を出そうとするな。神は天にいまし、あなたは地上にいる。言葉数を少なくせよ。
5:2 夢を見るのは悩みごとが多いから。愚者の声と知れるのは口数が多いから。
5:3 神に願をかけたら/誓いを果たすのを遅らせてはならない。愚か者は神に喜ばれない。願をかけたら、誓いを果たせ。
5:4 願をかけておきながら誓いを果たさないなら/願をかけないほうがよい。
5:5 口が身を滅ぼすことにならないように。使者に「あれは間違いでした」などと言うな。神はその声を聞いて怒り/あなたの手の業を滅ぼされるであろう。
5:6 夢や空想が多いと饒舌になる。神を畏れ敬え。
5:7 貧しい人が虐げられていることや、不正な裁き、正義の欠如などがこの国にあるのを見ても、驚くな。なぜなら/身分の高い者が、身分の高い者をかばい/更に身分の高い者が両者をかばうのだから。
5:8 何にもまして国にとって益となるのは/王が耕地を大切にすること。
5:9 銀を愛する者は銀に飽くことなく/富を愛する者は収益に満足しない。これまた空しいことだ。
5:10 財産が増せば、それを食らう者も増す。持ち主は眺めているばかりで、何の得もない。
5:11 働く者の眠りは快い/満腹していても、飢えていても。金持ちは食べ飽きていて眠れない。
5:12 太陽の下に、大きな不幸があるのを見た。富の管理が悪くて持ち主が損をしている。
5:13 下手に使ってその富を失い/息子が生まれても、彼の手には何もない。
5:14 人は、裸で母の胎を出たように、裸で帰る。来た時の姿で、行くのだ。労苦の結果を何ひとつ持って行くわけではない。
5:15 これまた、大いに不幸なことだ。来た時と同じように、行かざるをえない。風を追って労苦して、何になろうか。
5:16 その一生の間、食べることさえ闇の中。悩み、患い、怒りは尽きない。
5:17 見よ、わたしの見たことはこうだ。神に与えられた短い人生の日々に、飲み食いし、太陽の下で労苦した結果のすべてに満足することこそ、幸福で良いことだ。それが人の受けるべき分だ。
5:18 神から富や財宝をいただいた人は皆、それを享受し、自らの分をわきまえ、その労苦の結果を楽しむように定められている。これは神の賜物なのだ。
5:19 彼はその人生の日々をあまり思い返すこともない。神がその心に喜びを与えられるのだから。
4章
4:1 わたしは改めて、太陽の下に行われる虐げのすべてを見た。見よ、虐げられる人の涙を。彼らを慰める者はない。見よ、虐げる者の手にある力を。彼らを慰める者はない。
4:2 既に死んだ人を、幸いだと言おう。更に生きて行かなければならない人よりは幸いだ。
4:3 いや、その両者よりも幸福なのは、生まれて来なかった者だ。太陽の下に起こる悪い業を見ていないのだから。
4:4 人間が才知を尽くして労苦するのは、仲間に対して競争心を燃やしているからだということも分かった。これまた空しく、風を追うようなことだ。
4:5 愚か者は手をつかねてその身を食いつぶす。
4:6 片手を満たして、憩いを得るのは/両手を満たして、なお労苦するよりも良い。それは風を追うようなことだ。
4:7 わたしは改めて/太陽の下に空しいことがあるのを見た。
4:8 ひとりの男があった。友も息子も兄弟もない。際限もなく労苦し、彼の目は富に飽くことがない。「自分の魂に快いものを欠いてまで/誰のために労苦するのか」と思いもしない。これまた空しく、不幸なことだ。
4:9 ひとりよりもふたりが良い。共に労苦すれば、その報いは良い。
4:10 倒れれば、ひとりがその友を助け起こす。倒れても起こしてくれる友のない人は不幸だ。
4:11 更に、ふたりで寝れば暖かいが/ひとりでどうして暖まれようか。
4:12 ひとりが攻められれば、ふたりでこれに対する。三つよりの糸は切れにくい。
4:13 貧しくても利口な少年の方が/老いて愚かになり/忠告を入れなくなった王よりも良い。
4:14 捕われの身分に生まれても王となる者があり/王家に生まれながら、卑しくなる者がある。
4:15 太陽の下、命あるもの皆が/代わって立ったこの少年に味方するのを/わたしは見た。
4:16 民は限りなく続く。先立つ代にも、また後に来る代にも/この少年について喜び祝う者はない。これまた空しく、風を追うようなことだ。
4:17 神殿に通う足を慎むがよい。悪いことをしても自覚しないような愚か者は/供え物をするよりも、聞き従う方がよい。
3章
3:1 何事にも時があり/天の下の出来事にはすべて定められた時がある。
3:2 生まれる時、死ぬ時/植える時、植えたものを抜く時
3:3 殺す時、癒す時/破壊する時、建てる時
3:4 泣く時、笑う時/嘆く時、踊る時
3:5 石を放つ時、石を集める時/抱擁の時、抱擁を遠ざける時
3:6 求める時、失う時/保つ時、放つ時
3:7 裂く時、縫う時/黙する時、語る時
3:8 愛する時、憎む時/戦いの時、平和の時。
3:9 人が労苦してみたところで何になろう。
3:10 わたしは、神が人の子らにお与えになった務めを見極めた。
3:11 神はすべてを時宜にかなうように造り、また、永遠を思う心を人に与えられる。それでもなお、神のなさる業を始めから終りまで見極めることは許されていない。
3:12 わたしは知った/人間にとって最も幸福なのは/喜び楽しんで一生を送ることだ、と
3:13 人だれもが飲み食いし/その労苦によって満足するのは/神の賜物だ、と。
3:14 わたしは知った/すべて神の業は永遠に不変であり/付け加えることも除くことも許されない、と。神は人間が神を畏れ敬うように定められた。
3:15 今あることは既にあったこと/これからあることも既にあったこと。追いやられたものを、神は尋ね求められる。
3:16 太陽の下、更にわたしは見た。裁きの座に悪が、正義の座に悪があるのを。
3:17 わたしはこうつぶやいた。正義を行う人も悪人も神は裁かれる。すべての出来事、すべての行為には、定められた時がある。
3:18 人の子らに関しては、わたしはこうつぶやいた。神が人間を試されるのは、人間に、自分も動物にすぎないということを見極めさせるためだ、と。
3:19 人間に臨むことは動物にも臨み、これも死に、あれも死ぬ。同じ霊をもっているにすぎず、人間は動物に何らまさるところはない。すべては空しく、
3:20 すべてはひとつのところに行く。すべては塵から成った。すべては塵に返る。
3:21 人間の霊は上に昇り、動物の霊は地の下に降ると誰が言えよう。
3:22 人間にとって最も幸福なのは、自分の業によって楽しみを得ることだとわたしは悟った。それが人間にふさわしい分である。死後どうなるのかを、誰が見せてくれよう。
2章
2:1 わたしはこうつぶやいた。「快楽を追ってみよう、愉悦に浸ってみよう。」見よ、それすらも空しかった。
2:2 笑いに対しては、狂気だと言い/快楽に対しては、何になろうと言った。
2:3 わたしの心は何事も知恵に聞こうとする。しかしなお、この天の下に生きる短い一生の間、何をすれば人の子らは幸福になるのかを見極めるまで、酒で肉体を刺激し、愚行に身を任せてみようと心に定めた。
2:4 大規模にことを起こし/多くの屋敷を構え、畑にぶどうを植えさせた。
2:5 庭園や果樹園を数々造らせ/さまざまの果樹を植えさせた。
2:6 池を幾つも掘らせ、木の茂る林に水を引かせた。
2:7 買い入れた男女の奴隷に加えて/わたしの家で生まれる奴隷もあり/かつてエルサレムに住んだ者のだれよりも多く/牛や羊と共に財産として所有した。
2:8 金銀を蓄え/国々の王侯が秘蔵する宝を手に入れた。男女の歌い手をそろえ/人の子らの喜びとする多くの側女を置いた。
2:9 かつてエルサレムに住んだ者のだれにもまさって/わたしは大いなるものとなり、栄えたが/なお、知恵はわたしのもとにとどまっていた。
2:10 目に望ましく映るものは何ひとつ拒まず手に入れ/どのような快楽をも余さず試みた。どのような労苦をもわたしの心は楽しんだ。それが、労苦からわたしが得た分であった。
2:11 しかし、わたしは顧みた/この手の業、労苦の結果のひとつひとつを。見よ、どれも空しく/風を追うようなことであった。太陽の下に、益となるものは何もない。
2:12 また、わたしは顧みて/知恵を、狂気と愚かさを見極めようとした。王の後を継いだ人が/既になされた事を繰り返すのみなら何になろうか。
2:13 わたしの見たところでは/光が闇にまさるように、知恵は愚かさにまさる。
2:14 賢者の目はその頭に、愚者の歩みは闇に。しかしわたしは知っている/両者に同じことが起こるのだということを。
2:15 わたしはこうつぶやいた。「愚者に起こることは、わたしにも起こる。より賢くなろうとするのは無駄だ。」これまた空しい、とわたしは思った。
2:16 賢者も愚者も、永遠に記憶されることはない。やがて来る日には、すべて忘れられてしまう。賢者も愚者も等しく死ぬとは何ということか。
2:17 わたしは生きることをいとう。太陽の下に起こることは、何もかもわたしを苦しめる。どれもみな空しく、風を追うようなことだ。
2:18 太陽の下でしたこの労苦の結果を、わたしはすべていとう。後を継ぐ者に残すだけなのだから。
2:19 その者が賢者であるか愚者であるか、誰が知ろう。いずれにせよ、太陽の下でわたしが知力を尽くし、労苦した結果を支配するのは彼なのだ。これまた、空しい。
2:20 太陽の下、労苦してきたことのすべてに、わたしの心は絶望していった。
2:21 知恵と知識と才能を尽くして労苦した結果を、まったく労苦しなかった者に遺産として与えなければならないのか。これまた空しく大いに不幸なことだ。
2:22 まことに、人間が太陽の下で心の苦しみに耐え、労苦してみても何になろう。
2:23 一生、人の務めは痛みと悩み。夜も心は休まらない。これまた、実に空しいことだ。
2:24 人間にとって最も良いのは、飲み食いし/自分の労苦によって魂を満足させること。しかしそれも、わたしの見たところでは/神の手からいただくもの。
2:25 自分で食べて、自分で味わえ。
2:26 神は、善人と認めた人に知恵と知識と楽しみを与えられる。だが悪人には、ひたすら集め積むことを彼の務めとし、それを善人と認めた人に与えられる。これまた空しく、風を追うようなことだ。
1章
1:1 エルサレムの王、ダビデの子、コヘレトの言葉。
1:2 コヘレトは言う。なんという空しさ/なんという空しさ、すべては空しい。
1:3 太陽の下、人は労苦するが/すべての労苦も何になろう。
1:4 一代過ぎればまた一代が起こり/永遠に耐えるのは大地。
1:5 日は昇り、日は沈み/あえぎ戻り、また昇る。
1:6 風は南に向かい北へ巡り、めぐり巡って吹き/風はただ巡りつつ、吹き続ける。
1:7 川はみな海に注ぐが海は満ちることなく/どの川も、繰り返しその道程を流れる。
1:8 何もかも、もの憂い。語り尽くすこともできず/目は見飽きることなく/耳は聞いても満たされない。
1:9 かつてあったことは、これからもあり/かつて起こったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない。
1:10 見よ、これこそ新しい、と言ってみても/それもまた、永遠の昔からあり/この時代の前にもあった。
1:11 昔のことに心を留めるものはない。これから先にあることも/その後の世にはだれも心に留めはしまい。
1:12 わたしコヘレトはイスラエルの王としてエルサレムにいた。
1:13 天の下に起こることをすべて知ろうと熱心に探究し、知恵を尽くして調べた。神はつらいことを人の子らの務めとなさったものだ。
1:14 わたしは太陽の下に起こることをすべて見極めたが、見よ、どれもみな空しく、風を追うようなことであった。
1:15 ゆがみは直らず/欠けていれば、数えられない。
1:16 わたしは心にこう言ってみた。「見よ、かつてエルサレムに君臨した者のだれにもまさって、わたしは知恵を深め、大いなるものとなった」と。わたしの心は知恵と知識を深く見極めたが、
1:17 熱心に求めて知ったことは、結局、知恵も知識も狂気であり愚かであるにすぎないということだ。これも風を追うようなことだと悟った。
1:18 知恵が深まれば悩みも深まり/知識が増せば痛みも増す。